大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)9554号 判決 1984年2月28日
原告(被参加人)
和泉明彦
右訴訟代理人
明尾寛
被告(被参加人)
恒松伸一
右訴訟代理人
高田晃男
参加人
日産火災海上保険株式会社
右代表者
本田精一
右訴訟代理人
寺谷英児
主文
一 被告(被参加人)は、原告(被参加人)に対し、金二三四万九九五八円及びこれに対する昭和五五年一二月一〇日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告(被参加人)のその余の請求を棄却する。
三 原告(被参加人)と参加人との間において、別紙記載の債権は、参加人の債権であることを確認する。
四 被告(被参加人)は、参加人に対し、金二二〇〇万円及びこれに対する昭和五七年一二月一日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
五 訴訟費用は、本訴請求にかかる分はこれを二分し、その一を原告(被参加人)の負担とし、その余を被告(被参加人)の負担とし、参加請求にかかる分はすべて被告(被参加人)の負担とする。
六 この判決は、第一項及び第四項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 本訴請求
原告(被参加人。以下単に「原告」という。)代理人は、「(一)被告(被参加人)は原告に対し、金五〇〇〇万円及びこれに対する昭和五五年一二月一〇日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。(二)訴訟費用は被告(被参加人)の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被告(被参加人。以下単に「被告」という。)代理人は、「(一)原告の請求を棄却する。(二)訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
二 参加請求
参加人代理人は、主文第三、第四項と同旨及び参加について生じた訴訟費用は被告の負担とする旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、原告代理人は、参加人の請求を棄却する旨の判決を、被告代理人は、「(一)参加人の請求を棄却する。(二)参加人について生じた訴訟費用は、参加人の負担とする。」との判決を求めた。
第二 当事者の主張
一 本訴請求
1 原告代理人は、請求の原因として、次のとおり述べた。
(一) 事故の発生
(1) 日時 昭和五五年一二月一〇日午前九時二五分ころ
(2) 場所 大阪府寝屋川市池田中町一八番一八号先国道一号線路上交差点(以下「本件交差点」という。)
(3) 加害車 大型貨物自動車(大阪一一な八一三九号。以下「被告車」という。)
右運転者 被告
(4) 被害車 普通貨物自動車(大阪四五の九七四八号。以下「原告車」という。)
右運転者 原告
(5) 態様 原告は、原告車を運転して、本件交差点を対面の青色信号に従つて守口方面から枚方方面に向けて、時速約四〇キロメートルで直進していたところ、対向してきた被告運転の被告車が同交差点でいきなり右折を始めたため、原告はこれを避けようとしたが間に合わず、原告車は被告車に衝突され、これにより原告は後記のとおり負傷した(以下「本件事故という。)。
責任原因
(1) 運行供用者責任(自賠法三条)
被告は、被告車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたところ、その運行によつて本件事故を惹起した。
(2) 一般不法行為責任(民法七〇九条)
被告は、本件交差点で右折するにあたり、原告車が被告車に対向して直進してきていたのであるから、原告車との安全を十分確認したうえ、その進路を妨害せずに進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、同車との安全を十分確認することなく右折を開始し、その進路を妨害して右折進行した過失により、本件事故を惹起した。
(三) 損害
(1) 受傷、治療経過等
(イ) 受傷
原告は、本件事故により、脳内出血、舌骨脱臼、上顎骨骨折、頭部挫創、右膝蓋骨骨折等の傷害を受けた。
(ロ) 治療経過
原告は、右受傷により、関西医科大学附属病院救命救急センターに昭和五五年一二月一〇日から同五六年一〇月九日まで(三〇四日間)、及び、加藤病院に同月一〇日から同五七年二月一六日まで(一三〇日間)、計四三四日間入院し治療を受けた。
(ハ) 後遣症
原告は、本件事故による前記受傷により、言語・記憶障害、情緒不安定、両下肢痙性、歩行困難の後遺症を残し、昭和五七年二月一六日症状固定の診断を受けた。右後遺症は、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)の後遺障害等級第三級三号に該当するものである。
(2) 治療関係費 二五〇万九四一二円
原告は、昭和五五年一二月一〇日から同五六年一〇月九日までの治療費(ただし、労災使用差額自己負担金)として一〇〇万二七一〇円を、同日から同五七年二月一六日までの治療費として一四七万六八五二円を、膝装具代金として二万九八五〇円を、それぞれ要した。
(3) 入院雑費 四三万四〇〇〇円
原告は、前記四三四日間の入院期間中、一日当たり一〇〇〇円、計四三万四〇〇〇円の入院雑費を要した。
(4) 付添看護費 一三〇万二〇〇〇円
原告は、前記四三四日間の入院期間中、近親者の付添看護を必要とし、その間一日当たり三〇〇〇円、計一三〇万二〇〇〇円の付添看護費を要した。
(5) 休業損害 二〇二万七二一四円
原告は、本件事故前の三か月間に、計四二万〇四一八円の収入を得ていたところ、本件事故により、後遺症の症状固定までの前記四三四日間の入院期間中、休業を余儀なくされた。このため、原告は、二〇二万七二一四円の得べかりし収入を喪失した。
(算式)
四二万〇四一八円×(一/九〇)=四六七一円
四六七一円×四三四=二〇二万七二一四円
(6) 傷害慰藉料 二五〇万円
前記受傷及び治療経過記載のとおり、原告は、重傷を受け四三四日間入院を要したものであるから、原告の傷害による精神的苦痛に対する慰藉料は、二五〇万円が相当である。
(7) 後遺障害による損害
(イ) 将来の付添看護費 一四九〇万九五二〇円
原告は、本件事故により、前記のとおり自賠責保険の関係で第三級三号の後遺症を受けたものであり、この後遺症の内容、程度に鑑みると、原告は、将来少なくとも二〇年間にわたり、近親者の付添看護を必要とし、その間、少なくとも一日あたり三〇〇〇円の付添費用を要するというべきであるから、原告の将来の付添費用を、年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して症状固定時の時価を求めると、一四九〇万九五二〇円となる。
(算式)
3000円×365×13.616=1490万9520円
(ロ) 逸失利益 五三〇四万五四〇六円
原告は、昭和三二年六月二九日生まれで、本件事故の当時二四歳であつたところ、前記後遺症のため、六七歳に至るまで四三年間にわたり、その労働能力を一〇〇パーセント喪失し、その間、少なくとも一年間につき、昭和五四年賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計男子学歴計二四歳の平均給与額を1.0674倍して求めた平均賃金月額一九万五五〇〇円を一二倍した二三四万六〇〇〇円の得べかりし収入を喪失したので、原告の後遺症による逸失利益を、年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して症状固定時の時価を求めると、五三〇四万五四〇六円となる。
(算式)
19万5500円×12×1.00×22.611=5304万5406円
(ハ) 後遺症による慰藉料一二〇〇万円
原告の本件事故による前記後遺症の内容、程度によると、原告の後遺症による精神的苦痛に対する慰藉料は、一二〇〇万円が相当である。
(8) 損害額小計 八八七二万七五五二円
右(2)ないし(7)記載の各損害額を合計すると、八八七二万七五五二円となる。
(四) 損益相殺
原告は、本件事故による損害の填補として、被告の加入する自賠責保険より一六八七万円の保険金(うち傷害部分一二〇万円、後遺症部分一五六七万円)を受領した。
したがつて、被告は、本件損害賠償として、原告に対し、右(三)の(8)記載の損害額小計八八七二万七五五二円から、右填補額を控除した七一八五万七五五二円の支払義務がある。
(五) よつて、本件損害賠償として、原告は、被告に対し、右七一八五万七五五二円のうち五〇〇〇万円及びこれに対する本件事故の日である昭和五五年一二月一〇日から右支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 被告代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。
(一) 請求の原因(一)(事故の発生)の(1)ないし(4)記載の事実は認める(ただし、本件交差点は正確には国道一号線の高架下の交差点である。)。同(5)記載の事実のうち、原告車と被告車とが衝突し、原告が負傷したことは認め、その余は否認する。原告は、原告車を時速七〇ないし八〇キロメートルという、無謀な制限速度違反で運転していたものである。
(二) 請求の原因(二)(責任原因)の(1)及び(2)記載の点は、いずれも争う。
(三) 請求原因(三)(損害)記載の点について
(1) 同(1)(受傷、治療経過等)記載の事実は知らない。
(2) 同(2)(治療費)記載の事実のうち、膝装具代金として二万九八五〇円を要した事実は認めるが、その余は知らない。
(3) 同(3)(入院雑費)ないし(6)(傷害慰藉料)記載の点は、いずれも否認する。
(4) 同(7)(後遺障害による損害)(イ)(将来の付添看護費)記載の点は争う。原告の本訴口頭弁論終結時(昭和五八年一二月八日)現在の治療状況からすると、今後二〇年間の付添看護を要するものとは断定できないというべきである。
(5) 同(7)の(ロ)(逸失利益)記載の点は争う。逸失利益の算定根拠として、二四歳時の平均月収一九万五五〇〇円を採用するのは不当であつて、現実の実収入を採用すべきである。
(6) 同(8)(損害額小計)記載の点は争う。
(四) 請求の原因(四)(損益相殺)記載の事実(ただし、「受領した。」まで)は認める。
3 参加人代理人は、請求の原因記載の各事実は、いずれも認める、と述べた。
4 被告代理人は、抗弁として、次のとおり述べた。
(一) 免責
本件事故は、専ら原告の一方的過失に基づいて発生したもので、被告には本件事故に関する過失はなく、かつ、被告車には構造上の欠陥または機能の障害がなかつたから、被告には損害賠償責任がない。即ち、
(1)(被告の無過失)
本件交差点は、その上部が国道一号線の高架バイパスとなつているものであるが、右高架部分を支えるコンクリート壁のため、交差点内及びその付近における左右の見通しがかなり制約されていたにもかかわらず、本件事故の当時、信号機や道路標示等による適切な交通規制がとられていない、いわば欠陥交差点ともいうべきものであつた。
原告車は、制限速度である時速四〇キロメートルをはるかに超える、時速七〇ないし八〇キロメートルの高速度で本件交差点に進入したもので、同交差点を反対方向から進行してきて右折しようとした被告としては、右のような高速度で進行してくる車両のありうることまで予見しうる可能性はなかつたというべきである。
また、被告は、被告車を運転して本件交差点に差しかかつた際、制限速度内である時速三五キロメートル前後に減速徐行し、少なくとも、原告車より先に交差点内に進入して右折を開始し、前方及び左側方を十分注視のうえ、進行方向の安全を確認して右折を継続したものである。その際、被告は、みずから確認しうる視界の範囲内に原告車を認めなかつた。であるから、被告は、本件事故の発生を回避できる可能性もなかつた。
したがつて、被告は、本件事故の発生に関し、被告車の運転にあたつての注意義務に違反した過失はないというべきである。
(2)(原告の過失)
原告は、本件事故の当日、大阪市内から高槻市安岡寺にある得意先へ行くため、阪神高速道路を経て、国道一号線を本件交差点に至つたのであるが、右の経路で高槻市に赴く場合は、通常、本件交差点の上部の高架バイパスを通過するはずなのに、原告は、わざわざ本件交差点を直進通過しようとした。このように、原告は、得意先への道中を相当急いでおり、本件交差点に差しかかつた際、前記制限速度をはるかに超える時速七〇ないし八〇キロメートルで直進し、既に右交差点に先に進入して右折を開始していた被告車を発見しながら、適切な制動操作とハンドル操作をとることができず、原告車を被告車に衝突させたものである。
したがつて、原告は、原告車を運転して本件交差点に進入するにあたり、減速し、進路前方を注視して運転すべき注意義務があるのに、これを怠り、制限速度を大幅に超える時速七〇ないし八〇キロメートルの速度で、進路前方の安全の確認を欠いたまま本件交差点に進入した過失があるというべきである。
(二) 過失相殺
仮に、被告に何らかの過失があり、また、被告の前記(一)(免責)記載の抗弁が認められないとしても、本件事故の発生については、原告にも前記(一)の(2)(原告の過失)に記載したような重大な過失があるから、損害賠償額の算定にあたつては、十分な過失相殺がなされるべきである。
(三) 損害の填補
原告は、本件事故による損害の填補として、請求の原因(四)(損益相殺)に記載したもののほか、左記(1)ないし(3)に記載した補償を受けた。
(1) 原告は、被告から任意弁済として一〇〇万円の支払を受けた。
(2) 原告は、労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)から、休業補償として、昭和五五年一二月一三日から同五七年一二月一日まで計一九五万七八三七円、障害特別支給金として三〇〇万円(一時金)、膝装具代金として二万九八五〇円、及び、その他の保険金として二五万四一〇〇円の、各支給を受けた。
(3) また、原告は、労災保険から、今後年金(障害補償年金として一一一万二一〇〇円、及び、障害特別年金として五万五四〇〇円)の支給を受ける旨の決定を受けた。
(四) 任意保険による填補(仮定抗弁)
仮に、原告が、本件事故による損害の填補として、以上に記載したもののほか、参加人から任意保険金二二〇〇万円の支払を受けたとの事実が認められるとするならば、右二二〇〇万円は、原告の本件事故による損害額から控除されるべきものである。
5 原告代理人及び参加人代理人は、抗弁に対し、抗弁(一)(免責)及び(二)(過失相殺)記載の点は、いずれも争う、同(三)(損害の填補)の(1)記載の事実は認めるが、同(三)の(2)及び(3)記載の事実は知らない、と述べた。
二 参加請求
1 参加人代理人は、請求の原因として、次のとおり述べた。
(一) 前記一の1(本訴請求における請求の原因)の(一)(事故の発生)ないし(四)(損益相殺)に記載の主張と同旨。
(二) 参加人は、原告車の所有者である訴外株式会社田窪工業所と、いわゆる無保険車傷害条項つきの自動車保険契約を締結していた。
(三) 参加人は、本件事故により原告の被つた損害に対する填補として、昭和五七年一一月三〇日、原告に対し、右条項に基づき、保険金二二〇〇万円を支払つた。
したがつて、原告の被告に対する本件事故に基づく損害賠償債権は、右支払額二二〇〇万円を限度として、商法六六二条(保険代位)に基づき、原告から参加人に移転した。
(四) 原告は、右(三)記載の移転を争つている。
(五) よつて、参加人は、被告に対し、参加人が保険代位に基づいて取得した本件事故に基づく損害賠償金二二〇〇万円及びこれに対する保険金支払日の翌日である昭和五七年一二月一日から右支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、並びに、原告に対し、右保険代位により取得した右損害賠償債権及び遅延損害金債権が参加人の債権であることの確認を、それぞれ求める。
2 原告代理人は、請求の原因に対する答弁として、同(二)ないし(四)記載の各事実はいずれも認める、と述べた。
3 被告代理人は、請求の原因(一)記載の主張に対し、一の2(本訴請求における請求の原因に対する答弁)に記載の主張と同旨であると述べ、参加請求の請求の原因(二)及び(三)(ただし、(三)は「支払つた。」まで)記載の事実は知らない、同(三)の「したがつて」以下及び(四)記載(争いの内容)の点は争う、と述べた。
4 被告代理人は、抗弁として、一の4(本訴請求における抗弁)の(一)(免責)ないし(三)(損害の填補)に記載したと同旨を述べた。
5 原告代理人及び参加人代理人は、右抗弁に対し、一の5(本訴請求における抗弁に対する認否)に記載したと同旨を述べた。
第三 証拠<省略>
理由
第一本訴請求
一事故の発生について
請求の原因1の(一)(事故の発生)の(1)ないし(4)記載の事実は、当事者間(参加人も争つていない。)に争いがない。
そして、右争いのない事実に、<証拠>を併せ考えると、次の事実が認められる。
1 本件事故の現場は、大阪府寝屋川市内をほぼ南西から北東に通じる国道一号線と、これを横切る東西方向の道路(以下「東西道路」という。)との立体交差部分の地上にあたる本件交差点(通称国道太間交差点)である。国道一号線は、本件交差点付近で部分的に高架となつて、東西道路と立体交差しているが、両道路の相互乗り入れのため、国道一号線は、右高架部分の両側に、高架部分の真下にあたる分離帯をはさむ形で、これに沿つて地上を南西方向から北東方向に通じる側道(以下「北東行道路」という。)と、北東方向から南西方向に通じる側道(以下「南西行道路」という。)とが設けられている。そして、本件交差点は、東西道路と、北東行道路及び南西行道路とが地上で約六〇度の角度で交差している。
本件交差点付近の道路状況は、別紙図面のとおりであり、北東行道路と南西行道路とは、いずれも二車線で、幅員はそれぞれ約7.00メートルと約7.50メートルである。また、東西道路は、西行車線が二車線で幅員約7.40メートル、東行車線が本件交差点西側で三車線、幅員約10.30メートル、東側で二車線、幅員約6.80メートルとなり、幅約1.00メートルの中央分離帯が設けられていた。
本件交差点は、信号機により交通整理の行われている交差点で、路面は平坦で、アスファルト舗装され、本件事故の当時は乾燥していた。同所付近の制限速度は時速四〇キロメートルで、駐車禁止の交通規制がされていた。
本件交差点の通過車両からの見通しについては、南西行道路を進行してきて右折する場合の本件交差点内における左側方の北東行道路への見通し、及び、北東行道路を直進通過する場合の同交差点手前における右側方の交差点内部への見通しは、いずれも右国道一号線の高架部分を支えるコンクリート製の橋脚に遮断されて、悪くなつていた。
2 原告は、原告車(普通貨物自動車)を運転して大阪市内から高槻市内へ商用で赴く途中、国道一号線を通り、北東行道路の西側車線を時速約六〇キロメートル前後で進行し、対面の青色信号に従つて本件交差点を直進通過しようとしたが、同交差点内を右斜め前方から右折してきた被告車が自車の進路前方を横切ろうとしているのを発見して、急ブレーキをかけたが、回避する余裕もなく、別紙図面の点付近で、被告車の左前部によつて自車右前部に衝突され、原告車の向きを約九〇度左方に向けられ、約5.40メートル押しやられて停止した。
3 被告は、その所有する被告車(大型貨物自動車)を運転して南西行道路の西側車線を時速約四〇キロメートルで進行して来て、本件交差点で右折して東西道路の西行車線に入ろうとしたが、この際、被告は、同交差点手前で対面の信号機が青色を表示しているのを確認したうえ、交差点に入り、右方に進路を変えて、時速約四〇キロメートルで交差点の中央付近を超え、分離帯の切れ目から北東行道路に進入しようとする時に、はじめて自車左方に同道路を南西方向から直進して交差点に進入してきた原告車を発見し、急ブレーキをかけたが、回避する余裕もなく、被告車左前部を原告車の右前部に衝突させ、やや右前方へ約6.0メートル滑走して停止した。
4 本件事故の直後、衝突地点付近には、原告車及び被告車のものと認められるスリップ痕及びすべり痕が残つていたが、このうち、原告車のスリップ痕は、前輪が左右とも約5.0後輪が左右とも約2.0メートル、同車の衝突後のすべり痕が約4.1メートルの長さであり、被告車のスリップ痕は、前輪が左右とも約8.5メートル、後輪の後側が左右とも約9.3メートル、前輪の前側が左右とも約9.3メートルの長さであつた。
以上の事実が認められる。
尤も、<証拠>中には、被告が本件事故直前に被告車の時速を三五キロメートルに減速した旨の供述部分、及び本件事故の衝突現場は、別紙図面のの地点よりも北側であつた旨の供述部分があるが、前者の被告車の時速の点は、<証拠>に照らし、にわかに信用できず、また、後者の衝突位置の点は、<証拠>中の各現場見取図及び現場写真により認められるスリップ痕の位置、<証拠>並びに検証の結果と比照し、にわかに信用できないし、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
二責任原因について
<証拠>に、弁論の全趣旨を併せ考えると、被告は、被告車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたところ、その運行中に本件事故を惹起したことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。したがつて、請求の原因(二)(責任原因)の(2)(一般不法行為責任)の点について判断するまでもなく、被告は、自賠法三条本文により、同条但書の免責の抗弁が認められない限り、本件事故によつて原告が被つた損害(物損を除く。)を賠償する責任があるところ、被告の免責の抗弁については、被告に後記四(過失相殺について)の2で認定するとおりの過失の認められる本件においては、その余の判断をするまでもなく、右免責の抗弁は、これを認めるに由ない。
したがつて、被告には、自賠法三条本文により、本件事故によつて原告が被つた損害(物損を除く。)を賠償する責任がある。
三損害について
1 受傷、治療経過等
(一) 受傷
<証拠>を総合すると、原告は、本件事故により、脳底骨折による脳内出血、舌骨脱臼、舌切創、上顎骨一部欠損、顔面挫傷、頭部挫創、右膝蓋骨複雑骨折、歯牙欠損、歯齦欠損及び挫創の傷害を受けたことが認められ<る。>
(二) 治療経過
<証拠>によると、請求の原因3の(一)の(2)(治療経過)記載の事実が認められ<る。>
(三) 後遺症
<証拠>を総合すると、原告は、本件事故に基づく前認定の受傷により、以下の内容、程度の後遺症を受けたことが認められる。
(1) 自覚症状には、言語及び記憶障害、情緒不安定、両下肢痙性及び歩行困難の症状があり、これを裏付ける他覚症状として、両上、下肢腱反射亢進、下肢の病的反射、及び、レントゲン線上、右膝蓋骨骨折後像が認められる。
(2) 加藤病院の担当医である医師訴外加藤清国の所見によると、原告は、生命維持に必要な日常生活の動作はほとんど独力で可能であるが、時々、付添の指示を必要とすることもある。原告には、脳内出血後による記銘力、見当識障害及び情緒不安定があり、高度な知的活動は不可能と思われる。ただ、精神障害も高度のものではなく、時々、易怒性が認められるが、回復も速やかで人格変化という程には至つておらず、暴力的動作もない。両上・下肢の巧緻性は少し劣るが、正常の四分の三ないし二分の一程度内のものである。下肢は筋力低下により松葉杖を使用して歩行している。右後遺症の症状固定日は昭和五七年二月一六日である。
(3) 自賠責保険の関係では、精神・神経障害のため、就労は不能であるが、日常生活は一応遂行できるものとして、自賠法施行令別表の第三級第三号が適用された。
(4) 原告の現在の日常生活は、松葉杖を使用しないと少ししか立つておられず、危険なので一人で放置しておけない、言語・記憶の障害も退院時よりわずかに改善されたにすぎない、というもので、母である前記証人が付添をしているが、一日中付添つているのではなく、家業の農業に充てる時間を多少さかれるという程度、という状況である。
以上の事実が認められ<る。>
2 治療費 二五〇万九四一二円
<証拠>によると、原告は、本件事故により、治療費として、昭和五五年一二月一〇日から同五六年一〇月九日までの関西医科大学附属病院における診療費一〇〇万二七一〇円、同日から同五七年二月一六日までの加藤病院における診療費一四七万六八五二円、及び、膝装具代金二万九八五〇円(膝装具代は当事者間に争いがない。)の計二五〇万九四一二円を要したことが認められ<る。>
3 入院雑費 四三万四〇〇〇円
原告が本件事故により計四三四日間の入院治療を要したことは、前記1の(二)(治療経過)で認定したとおりであり、経験則によると、原告は、右入院期間中、一日につき少なくとも一〇〇〇円の割合による入院雑費を要したことが認められるから、原告は、本件事故により、入院雑費として、四三万四〇〇〇円の損害を受けたことが認められ<る。>
4 付添看護費 一三〇万二〇〇〇円
<証拠>によると、原告は、前記1の(二)(治療経過)で認定した四三四日間の入院期間中、母である右証人の付添を必要としたことが認められ<る。>
そして、経験則によると、原告は、右四三四日間の入院期間中、一日あたり少なくとも三〇〇〇円の割合による付添費用を要したことが認められるから、原告は、本件事故により、付添費用として、一三〇万二〇〇〇円の損害を受けたことが認められ<る。>
(算式)
三〇〇〇円×四三四=一三〇万二〇〇〇円
5 休業損害 二〇一万三三六五円
<証拠>によると、原告は、本件事故の前である昭和五五年九月から一一月までの三か月間に、計四一万七五一八円の実収入を得たことが認められ、<反証排斥略>。
そして、前記1の(二)(治療経過)で認定した原告の治療経過に、弁論の全趣旨を併せ考えると、原告は本件事故による受傷により、昭和五五年一二月一〇日から症状の固定した同五七年二月一六日までの四三四日間にわたり、休業を余儀なくされ、その間、少なくとも右認定の実収入額相当の割合による得べかりし収入を喪失したものと認めるのが相当であるから、原告の本件事故による休業損害は、二〇一万三三六五円となる。
(算式)
四一万七五一八円×(四三四/九〇)=二〇一万三三六五円(円未満四捨五入。以下同じ。)
6 将来の付添看護費 九九三万九六八〇円
右1の(三)(後遺症)で認定した原告の本件事故による後遺症の内容、程度に、経験則を併せ考えると、原告は、症状の固定した昭和五七年二月一六日以降、少なくとも二〇年間にわたり、日常生活において近親者の付添を必要とするものと認めるのが相当であり、付添にあたるのが近親者である点及び右認定の付添を要する程度を考えると、右期間中の付添費用は、一日あたり少なくとも二〇〇〇円を要するものと認めるのが相当であるから、原告の将来の付添費用を、年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して症状固定時の時価を求めると、九九三万九六八〇円となる。
(算式)
2000円×365×13.6160=993万9680円
7 逸失利益 四一四八万〇九五二円
(一) 原告が、本件事故前である昭和五五年九月から同年一一月までの三か月間にわたり、計四一万七五一八円の収入を得ていたことは、前記5(休業損害)で認定したとおりである。
そして、<証拠>によると、原告は、右のほか、一年間に二回の賞与を受けることになつており、本件事故前の昭和五五年七月一九日には、賞与として八万二二五八円の支給を受けたことが認められ<る。>
したがって、原告の逸失利益の算定の基礎となる年収の額は、少なくとも一八三万四五八八円と認めるのが相当である。
(算定)
四一万七五一八円×(一二/三)+八万二二五八円×二=一八三万四五八八円
(二) そして、<証拠>によると、原告は、昭和三二年六月二九日生まれで、症状の固定した同五七年二月一六日には二四歳であつたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はなく、これに前記1の(三)(後遺症)で認定した原告の後遺症の内容、程度及び経験則を併せ考えると、原告は、前記後遺症により、六七歳に達するまでの四三年間にわたり、その労働能力を一〇〇パーセント喪失したものと認めるのが相当であるから、原告の逸失利益を、前記(一)で認定した年収の額を基準として、年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除した症状固定時の時価を求めると、四一四八万〇九五二円となる。
(算式)
183万4588円×1.00×22.6105=4148万0952円
8 慰藉料 一六〇〇万円
前記認定の本件事故の態様、原告の受けた傷害の部位、程度、治療経過、後遺症の内容、程度、原告の受けた教育程度、その他諸般の事情を総合すると、原告の本件事故による精神的苦痛を慰藉するには、慰藉料として一六〇〇万円を認めるのが相当である。
9 損害額小計
右2ないし8で認定した各損害額を合算すると、七三六七万九四〇九円となる。
四過失相殺について
1 前記一(事故の発生について)で認定した事実及び弁論の全趣旨によると、原告は、原告車を運転して本件交差点に差しかかつた際、対面の青色信号に従つて同交差点を直進通過しようとしたものではあるが、同交差点が極めて見通しの悪い交差点であつたのにもかかわらず、原告車の速度を減速することなく、制限速度を約二〇キロメートル超過する時速約六〇キロメートル前後の速度で直進通過しようとした結果本件事故が発生したものと認められるところ、本件のような見通しが十分きかない交差点に進入するに際しては、原告は、自車の速度を十分減速して進行すべき注意義務があつたものといわなければならない。
したがつて、原告は、右注意義務に違反し、前記一(事故の発生について)において認定したとおり、原告車の速度を減速せず、時速約六〇キロメートル前後の速度で本件交差点に進入した過失があり、右過失は、本件事故発生の一因をなしているものといわなければならない。
2 他方、前記一(事故の発生について)で認定した事実及び弁論の全趣旨によると、本件事故は、被告が被告車を運転して本件交差点で右折するにあたり、対面の青色信号に従つて右折したものではあるが、同交差点が極めて見通しの悪い交差点であつたにもかかわらず、被告車の速度を減速し、進路前方及び側方の安全を十分確認することなく右折した結果発生したものと認められるところ、本件のような見通しが十分きかない交差点を右折する場合には、被告には、自車の速度を減速し、進路前方及び側方の安全を十分確認しながら右折すべき注意義務があつたものといわなければならない。
したがつて、被告は、右注意義務に違反し、前記一(事故の発生について)において認定したとおり、本件交差点で右折するにあたり、被告車の速度を減速することなく、時速約四〇キロメートルのままの速度で、進路前方及び側方の安全を十分確認しないまま右折進行した過失があり、右過失も、本件事故発生の一因をなしているものといわなければならない(なお、原告が、制限速度を約二〇キロメートル超過する時速約六〇キロメートル前後で原告車を運転し、本件交差点に進入してきたものであることは前記認定のとおりであるが、国道一号線のような幹線道路と交差する道路で、しかも、対面信号が青色の場合、右の程度の速度違反で進行する車両があることは、通常の自動車運転手として十分予見でき、また予見すべきであつたものというべきである。また、被告としては、右折にあたり減速措置をとることにより、北東行直進車両を発見した段階で停止して、事故の発生を未然に回避する可能性は十分あつたものである。)。
3 よって、右に認定した原告及び被告のそれぞれの過失の内容、程度に、前記認定の双方の車種の違い、本件事故の態様その他諸般の事情を併せ考えると、過失相殺として、原告の損害額の四割を控除するのが相当であると認められるところ、過失相殺の基本となる損害額は、前記三(損害について)の9記載の損害額小計七三六七万九四〇九円であるから、これから四割を控除して過失相殺後の原告の損害額を算出すると、四四二〇万七六四五円となる。
五損害の填補について
1 原告が、本件事故による損害の填補として、自賠責保険から保険金一六八七万円(内訳は、傷害保険金一二〇万円、後遺症保険金一五六七万円)及び被告から任意弁済として一〇〇万円をそれぞれ受領したことは、当事者間(参加人も争わない。)に争いがない。
2 また、<証拠>によると、原告は、本件事故による受傷等に関し、労災保険から、休業補償給付として一九五万七八三七円、休業特別支給金として六万三四九〇円、療養費給付(膝装具分)として二万九八五〇円、障害特別支給金として三〇〇万円の各支給を受けたこと、及び、将来、障害補償年金一一一万二一〇〇円と障害特別年金五万五四〇〇円の支給がなされる旨の決定を受けたことが認められ<る。>(なお、被告が抗弁(三)(損害の填補)の(2)で主張する労災保険金のうち、その他の保険金二五万四一〇〇円は、前記認定の休業補償給付の一部である一九万〇六一〇円と、休業特別支給金六万三四九〇円との合算額であることは、<証拠>により認められ、この点については他に右認定を左右するに足りる証拠はない。)
ところで、右各労災給付のうち、休業特別支給金、障害特別支給金及び障害特別年金は、労働者災害補償保険法二三条に基づく労働福祉事業の一環として、労働者の福祉の増進を図るために支給されるもので、損害填補のためのものではないから、損害賠償から控除すべきものにあたらないし、また、障害補償年金は、いまだ受給決定がなされたのみで、現実に保険金を給付して損害を填補したことを認めるに足りる証拠はないから、右年金額は損害賠償額から控除すべきものではないといわねばならない。
したがつて、労災給付金のうちから、損害の填補として控除の対象となるのは、休業補償給付金一九五万七八三七円及び療養費給付金二万九八五〇円の計一九八万七六八七円である。
3 次に、労災保険給付金の控除を過失相殺の前に行うべきか、過失相殺の後に行うべきかについては、考え方に争いが存するところであるが、労災保険給付金の控除を過失相殺の前にすべきものとする考え方(以下、「控除後相殺説」という。)の根拠は、この給付の趣旨が、被災労働者にできる限り完全な補償を政府により与え、保護しようとする制度である点及び労災保険金額は、被災労働者の重過失のある場合に限り減額するとされている点(労災保険法一二条の二の二第二項)にある。
これに対し、労災保険給付の控除を過失相殺の後に行うべきであるという考え方の根拠は、この給付の趣旨は労災事故による被災労働者の損害の填補を目的とするものであり、したがつて、損害賠償の一般法理により、過失相殺の後に控除すべきであると考えるところにある。
そこで、労災保険給付の趣旨を考えてみるに、労災保険法の立法の沿革、事業主による費用負担、給付の実質等を総合的に考慮すると、労災保険給付の趣旨は、基本的には、労災事故による被災労働者の稼働能力等の財産的損害を填補するものという点にある。たしかに、昭和三五年以降、労災保険制度の数次の改正により、保険給付の年金化及び給付水準の引上げのほか業務災害に対する保険給付や労働福祉事業の新設等の措置がとられ、その結果、労災保険制度は、労働基準法上の災害補償の責任保険としての役割に加えて、労働者の生活保障の機能をも併有するに至つたということができる。しかし、だからといつて、労災保険制度の第一次的かつ基本的な性格である労働災害についての災害補償の代行という面が否定され、また、労災保険が被災労働者の損害の填補のための制度であるということが否定されるいわれはない。しかも、労災保険の受給権者に対する第三者の損害賠償義務と政府の労災保険給付の義務とは、相互補完関係にあり、同一事故による損害の二重填補を認めるものではないと解されるのであつて(最高裁昭和五〇年(オ)第四三一号同五二年五月二七日第三小法廷判決・民集三一巻三号四二七頁参照)、右最高裁判決の趣旨を体して、昭和五五年法律第一〇四号により労災保険法六七条が新設され、同法に基づく年金給付と、民法等他の法律に基づく損害賠償との調整を行い、両者による損害の重複填補を可能な限り避けようとする措置がとられたことから考えても、労災保険給付の性格が、損害の填補を基本としていることが首肯できるのである。そして、右の理は、いわゆる使用者行為災害に対する保険給付のみならず、いわゆる第三者行為災害に対する保険給付についても妥当するものであり、これらを別異に解すべき特段の理はない。
これに反して、控除後相殺説は、右に述べた労災保険の制度趣旨に必ずしも適合する考え方とはいえないし、特に、この考え方では、被災労働者が死亡した事故の場合に、過失相殺による減額、損害賠償請求権の相続による各相続人への相続分に応じた配分、及び遺族のうち労災保険の受給権者(相続人の範囲と一致するとは限らないし、受給権者以外の者の損害賠償請求権の相続分から受給権者に支給された保険金を控除することは許されないとの趣旨を述べた最高裁昭和四七年(オ)第六四五号同五〇年一〇月二四日第二小法廷判決・民集二九巻九号一三七九頁参照。)に支給された労災保険金の控除という三つの問題相互の関係を、被災労働者が死亡しなかつた通常の事故の場合と対比して、現在の損害賠償の一般法理の下で、理論的に整合した説明を与えることは困難であるという難点がある。したがつて、控除後相殺説は相当でなく、前記のとおり最高裁判決や法令の改正の行われた現在では、もはや右考え方には組し難い。
以上のとおりであるから、労災保険給付金は、損害賠償法理の一般原則に照らし、他の損害填補と同様に扱うことが要請されているものと解すべきであり、したがつて、これを過失相殺の後に控除すべきであると解するのが相当である。
そこで、本件についても、休業補償給付金及び療養給付金は、過失相殺の後に控除することとする。
4 さらに、参加人が原告に対し、昭和五七年一二月三〇日、本件事故による損害の填補として、参加人と訴外株式会社田窪工業所との間の、いわゆる無保険車傷害条項つぎの自動車保険契約に基づき、保険金として二二〇〇万円を支払つたことは、後記第二(参加請求について)の二(ただし「証拠はない。」まで)において認定するとおりである。
したがつて、原告の被告に対する損害賠償請求権において、過失相殺後の損害額から控除されるべき損益相殺の額は、四一八五万七六八七円となる。
よつて、被告は、本訴請求にかかる損害賠償として、原告に対し、右四(過失相殺について)で認定した過失相殺後の損害額四四二〇万七六四五円から、右損益相殺額を控除した二三四万九九五八円及びこれに対する本件事故の日である昭和五五年一二月一〇日から右支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があることになる。
第二参加請求
一参加請求における請求の原因(一)及び抗弁に記載の点に対する当裁判所の判断は、前記第一(本訴請求)の一(事故の発生について)ないし四(過失相殺について)及び五(損害の填補について)の1に記載したのと同じである。
二<証拠>を総合すると、参加請求の請求の原因(二)及び(三)(ただし、(三)は「支払つた。」まで)記載の各事実が認められ<る。>
したがつて、原告の被告に対する本件事故に基づく損害賠償権は、右認定の保険金支払日である昭和五七年一一月三〇日に、商法六六二条(保険代位)に基づき、右認定の支払額二二〇〇万円を限度として、原告から参加人に移転したことが認められる。
三弁論の全趣旨によると、参加請求の原因(四)記載の事実が認められ<る。>
四よつて、参加人は、原告に対し、右保険代位により取得した右損害賠償債権及び遅延損害金債権が参加人の債権であることの確認を求める利益を有するものといわねばならないし、被告は、参加人に対し、参加人が保険代位に基づいて取得した本件事故に基づく損害賠償金二二〇〇万円及びこれに対する保険金支払日の翌日である昭和五七年一二月一日から右支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。
第三結論
以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告に対し、本件損害賠償として、金二三四万九九五八円及びこれに対する本件事故の日である昭和五五年一二月一〇日から右支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので、その限度で正当としてこれを認容し、その余の請求は理由がないから、失当としてこれを棄却することとし、参加人の参加請求は、全部理由があるので、これを認容することとし、訴訟費用の負担については、本訴請求につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、参加請求につき同法九四条後段、八九条、九二条但書、九三条一項本文を、仮執行の宣言については、本訴請求及び参加請求の双方について同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(弓削孟 加藤新太郎 五十嵐常之)
別紙
昭和五五年一二月一〇日午前九時二五分ころ大阪府寝屋川市池田中町一八番一八号先路上において発生し、原告(被参加人)が負傷した交通事故〔原告(被参加人)運転の自動車と被告(被参加人)運転の自動車が衝突した交通事故〕により、原告(被参加人)が被告(被参加人)に対し取得した本訴請求にかかる損害賠償債権及びこれに対する昭和五五年一二月一〇日から右支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金債権のうち、金二二〇〇万円の損害賠償債権及びこれに対する昭和五七年一二月一日から右支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金債権